根来の知識交換モデル

 根来の知識交換モデルバリューチェーンの発展を目的として、インターネットにおける商取引とそれに関連した知識交換を行うものである。
根来龍之・木村誠『ネットピジネスの経営戦略:知識交換とバリューチューン』日科技連出版社 1999
根来龍之・木村誠「インターネットコマース(IC)発展のためのプラットフォーム・ビジネス類型化の試み-知識チェーンと知識インタラクションの相互発展-」
http://www.f.waseda.jp/negoro/ec/EcPlatform.PDF
ネットビジネスのための経営戦略
http://www.bekkoame.ne.jp/~kmakoto/netbiz/ic1999.html

 インターネットコマースにおいては、取引主体間や顧客との間、さらには顧客同士の間でさまざまなコミュニケーションが行われている。このコミュニケーションがバリューチェーンを発展させるというのが知識交換モデルの基本的着想である。ここで、バリューチェーンの発展とは以下のようなことを指す。1)バリューチェーン創発(新しく生まれる)、2)バリューチェーンの分流と合流、3)バリューチェーンの改善と安定化。
 バリューチェーンの発展のために果たす役割に着目するとインターネットコマースにおける主体間コミュニケーションは、まず知識フローと知識ストックに分けうる。前者はメッセージの交換や相手の意図の解釈などの行為そのものであり、後者はその交換や解釈が蓄積されたものである。蓄積は参照を容易にする。インターネットコマースにおいては、知識はサプライ主体あるいはコミュニティ(同好者がアクセスする場)に蓄積される。
 フローとストックの対比とともに、コミュニケーションを交換する主体間の関係に着目した分類も行いうる。一つのバリューチェーン中の上流・下流における主体同士のコミュニケーションと、複数のバリューチェーンにまたがって、あるバリューチェーンを要求または解釈する主体同士のコミュニケーションという分類である。前者は実際に商取引を行う主体間の知識交換であり、後者は商取引から独立性がある知識交換である。後者には、中立性と公開性が成立しやすいという特性がある。


☆知識フローのモデル
 インターネットを通じた知識のフローとして、知識トランザクションサプライチェーン上の主体間のコミュニケーション活動であり、他主体の「目的(構想)」の解釈と他主体への「要求」からなる)と知識インタラクション(主体同士がある場(コミュニティ)において、知識交換と共有を行い、場に知識を蓄積していく活動)を提起した。
 さらに、知識トランザクションによってバリューチェーンをつくる主体間の結びつきを表現するモデルとして知識トランザクション・モデル、そして、知識インタラクションによってできたコミュニティと主体の結びつきを表現するモデルとして、知識インタラクション・モデルを知識フローの基本モデルとして提起した。


☆知識ストックのモデル
 インターネットを通じた知識のフローは、インターネット上のある場に蓄積することができることを提起した。このときの知識フローと知識ストックの対応関係は、インターネットにおけるバリューチェーンの視点から見たときの位置付けによって二分類できる。
 チェーン指向の知識のフローが蓄積されたものが知識チェーンであり、コミュニティ指向の知識のフローが蓄積されたものが知識コミュニティである。
 また、このとき、知識のストックが行われる様なインターネット上のある場をプラットフォームとして表現する。
 根来の知識交換の4つのパターンをまとめると以下のようになる。
○主体間コミュニケーション
 ●知識フロー:メッセージの交換や相手の意図の解釈などの行為そのもの
 ●知識ストック:知識フローが参照が容易な形で蓄積されたもの
○コミュニケーションを交換する主体間の関係
 ●チェーン指向:商取引を前提とした知識交換について、顧客の特定性を理解することでビジネスの魅力を高めるアプローチ「取引に関連した情報交換の活用」
 ●コミュニティ指向:商取引を前提としない知識交換をビジネスのために魅力とするアプローチ「取引から独立した情報交換の活用」

【知識交換モデルの4つのパターン】

主体の関係 知識フロー 知識ストック
チェーン指向 1つのサプライチェーン中の上流・下流における主体同士 知識トランザクションサプライチェーン上の取引主体間の知識交換活動。他主体への「提案」と他主体への「要求」からなる。製品を通じた間接的コミュニケーションも存在する。 知識チェーン:知識トランザクションによって形成されたサプライチェーン上の他主体についての知識の整理された蓄積
コミュニティ指向 複数のサプライチェーンにまたがって、あるバリューを要求または議論する主体同士 知識インタラクション:商取引から独立に主体同士がある場において行う知識交換活動。あるテーマ(バリュー)に関心を持つ人々が集まること他主体への知識提供とそれへの反応からなる。潜在顧客も参加し、アクセス者が意図しない「場における結果としてのインタラクションも含まれる」 知識コミュニティ:知識インタラクションによって、場に形成された知識の整理された蓄積


 根来の知識交換モデルは、バリューチェーンを前提にインターネットコマースにおける知識交換である。ただし、バリューチェーンの発展の理論はまた発展段階であり、知識交換による発展を十分に説明できているとはいえない。実際に、近年広まりだしたECに適応させていくことは容易ではないと考えられる。
 そこで、ここからは、更に根来の知識交換理論をECに適応させていくために、より一般化する試みをしていきたい。模倣困難性を維持しにくいといわれるECを行うにあたって、何がECの競争優位になるかの検討が必要である。そのために、次回はまずEC発展の基礎となったIT化の影響から見ていきたいと思う。