野中の知識創造と知識交換の違い

 組織的知識の研究は日本の誇る研究であり、現在も多くの分野で用いられている。ナレッジマネジメントは、一橋大学大学院の野中郁次郎教授と竹内弘高教授の研究を契機として学産で注目を集めた。

The Knowledge−Creating Company (with co-author), Oxford University Press, 1995
(米国出版社協会 (経営書部門)「ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー」賞)
『知識創造企業』東洋経済新報社,1996

 野中・竹内が組織的知識創造の理論として提出したのが、SECIモデルである。これは知識は個人に依存するという西洋哲学的な視点から離れて、個人と組織は知識を通じて相互作用するという前提に立ち、組織メンバー各人が持つ知識(暗黙知形式知)の絶え間ない交換と実践によって、知の再生産を促進するサイクル(スパイラル)を形成することを目標としている。
@IT ナレッジマネジメント
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/km.html
@IT SECIモデル
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/seci.html
ナレッジマネジメントと知識創造
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/netorg/XHTML/5.html


 知識社会における知識交換の知識とは、ネットワークの中で、組織を越えて瞬時に多くの人たちに共有されレスポンスがある、新しい知識である。これが提唱されたのが、以下のものである。
根来龍之・木村誠『ネットピジネスの経営載賂:知識交換とバリューチューン』日科技連出版社 1999
根来龍之・木村誠「インターネットコマース(IC)発展のためのプラットフォーム・ビジネス類型化の試み-知識チェーンと知識インタラクションの相互発展-」
http://www.f.waseda.jp/negoro/ec/EcPlatform.PDF
根来龍之「インターネットがB2Cビジネス構造に与える影響 2004年時点での総括」」
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/4345/1/93105_400.pdf

 根来・木村両氏によると、野中の組織的知識との違いは以下のようになる。
 暗黙知形式知に渡る4つのモードで示される野中型知識は、春夏秋冬に同じ組織内の諸活動を通じて、交換され、共有されてゆっくりと熟成されていく。思考や経験を通じて自分のものになっている情報体系であり、そこには「主体的思い」が存在する。正当化された真なる信念である知識である。
 これに対して、根来の知識は、インターネットにおける知識交換は瞬時の内に伝わり、大変なスピードで共有され、反論・異論・同意が広い範囲で積み重ねられていく発信者の名前付の、発信者の個性が反映した情報。他者の知識は主体による参照の対象であると同時に、他者からの「要求」として主体に対して発信されることがあり、さらに、ネットワーク上の「場」に蓄積 可能だと考えている。発信者の個性があるということはそれが仮名であっても、発信者がわかることであるが、匿名性の情報は、ここでは知識とは呼べない。

【野中型知識の概念と根来の知識の違い】

野中型知識 根来の知識 データ
定義 正当化された真なる信念 発信者の個性が反映した情報(仮名も可能) 事実
知識の源泉 暗黙知 インターネット上にある場と関連した知識フロー 観察、記録
「場」への意味依存性 場から離れると意味がわからない 場にアクセスしていないと意味がわからない 場を離れても意味が分かる
テキストとの関係 テキスト(文書)は知が形式化されたもの テキストとして電子媒体で発信・受信され、蓄積される テキストは伝達の手段
情報技術(IT)との関係 ITは形式知の蓄積と連結を助ける ITをプラットフォームとして知識ストックが成立する ITは情報の伝達を支援する
知の共有スパン ともに実際に活動を行う人の間 時間・空間の境界を越えて、ある価値に関心のある人の間 限定されない人達の間


次回は、この根来の提唱した知識に基づく知識交換モデルについて述べていきたいと思います。