IT化がもたらした経済法則

収穫逓増の法則
 IT化にもたらされた変化は、複合してよりこれまでの市場とは異なる現状が起こることが指摘されている。従来の市場とは違って、“限界生産物”が増加し続ける「収穫逓増」の現象が多くみられるという指摘がある。収穫逓増は一種の正のフィードバックなので、市場は不安定となり、わずかに優位を獲得した特定の製品のシェアが著しく拡大し市場を固定化(ロックイン)する。
 アーサー(B. W. Arthur『収益逓増と経路依存 : 複雑系の経済学』2003.1)は、ハイテク製品に収穫逓増がはたらく理由として、①製品を創出するコスト(up-front costs)、②ネットワーク効果、③顧客適合性をあげている 。その中で、製品を創出するコストに着目すると、それは初期の開発費用がきわめて高いにもかかわらず、デジタル化にあるように限界費用がきわめて低いために平均費用がいつまでも低下し続けることで、その結果、製品のコスト面での優位性は生産量が増えるにつれ拡大する。このことは、情報のコピー性ないし非消耗性にもとづくもので、製品に占める情報の割合が高いほど、この傾向は高まるものと考えられる。コンピュータソフトウェアのような、その本質が情報のみで構成される財=情報財が、今日では著しく増加してきている。そして、情報のデジタル化やネットワーク化の拡大は、情報財のメディアへの依存性をなくし、コピーや流通における劣化や消耗をなくすと同時に、そのためのコストを限りなくゼロへと近づけつつある。
 また、自動化によりこれまでは不可能であった、個人に対するカスタマイズが容易になったことが顧客適合性を高める要因になっている。
 収穫逓増によるロックイン(=自然独占)を起こす可能性が高いということは、「Winner takes all」と言われるように、従来のような「競合環境」の中で利益を分け合う「共存」ではなく、ビジネスのまとまりとしての「競争」構造はますます激化する事が予想される。