プラットフォームのレビュー

 ECにおけるインタラクションコスト削減の鍵を握るプラットフォームとプラットフォーム・ビジネスのレビューをしていく。

 まず今回は一般的に用いられているプラットフォームの定義をレビューしていきたい。
 プラットフォームという言葉は、日常用語として、「駅などで、乗客が乗り降りする一段高くなった場所」 である。コンピュータ用語でよく使われるようになり、経営学の文献にも派生し、様々な場面において様々な意味で利用されるようになった。そのため明確な定義が定着しているわけではない。


 プラットフォームは、本来的な意味として、壇、台、踏み台、演壇、舞台、基盤、基本骨格などである。転じて、コンピュータ用語としては「アプリケーションソフトを稼動させるための基本ソフト又はハードウエア環境」 、ビジネス用語としては「複数のインフラをシームレスにつなげ、サービスを提供しやすくするための共通基盤」 とされている。
e-words
http://e-words.jp/w/E38397E383A9E38383E38388E38395E382A9E383BCE383A0.html

 
 インテルではプラットフォームを次のように定義している。プラットフォームとは、「特定の利用モデルを実現するためにさまざまな構成要素を統合したものであり、これによって既存市場の成長と新市場の創出を図り、構成要素個々の合計を超えた利点をエンドユーザーに提供するもの」 としている。
インテル
http://www.intel.co.jp/jp/platforms/whatis.htm

 
 経済産業省においては、地域プラットフォーム事業と言う形で用いている。「地域における新事業創出を加速させるためには、地域に存在する各種の産業支援機関を、中核的支援機関を中心にネットワーク化し、研究開発から事業化までの各段階において必要とされる、技術情報、資金、経営ノウハウなどのソフト面からの支援を総合的に提供する体制」をさしているのだ 。
経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/downloadfiles/Business_environment_prom_div/PLATFORM.html
http://www.janbo.gr.jp/index.html


 同様な形では、日本政策投資銀行がプラットフォームの提供を行っている。地域再生プロジェクトを効率的に生み出す上では、地域再生コンセプトの抽出と展開、地域でのネットワーク活用や新たな金融手法の適用などの工夫が有効に機能する。これらは、複数の地域再生プロジェクトを生み出していけるという意味で「土台=プラットフォーム」と呼ぶことができるもので、日本政策投資銀行は、こうしたプラットフォームを提案し構築していくことで、「ビジョン」と具体的な「プロジェクト」を双方向につなげて、コンセプト、ネットワーク、制度、手法を包括した概念として用いている 。
日本政策投資銀行
http://www.dbj.go.jp/japanese/local/case/index.html


 マッキンゼーでは、「ソフトウエアなどの業界や外交・行政などで、複数の凸凹な「インフラ(基盤)」の上に改めてその表面が平らになるように構築され、最終的な目的とする行為を支障なく遂行するための環境としての価値を生み出す仕組み。加えて、複数の事業などで共通する機能とう部分を統合する仕組み」 、それをプラットフォームという。
 また、階層も以下の3層に分けた。
マッキンゼーによるプラットフォームの階層

利用者 競争 他社との差別化により競争優位を確立:スキルの経済
プラットフォーム 共創 複数のプレイヤーを介在することで得られる固有の価値を創造する:範囲の経済
インフラ 共通 多数の利用者を獲得しコストを削減:スケールの経済

マッキンゼー流デジタル経営進化論
http://www.mckinsey.co.jp/services/articles/pdf/2002/20020610.pdf
http://www.mckinsey.co.jp/services/articles/pdf/2002/20020710.pdf


 プラットフォームは、モノを創り出すわけでもなく、直接サービスを提供するわけでもない。ネットワークに偏在し、全てのプレイヤー間に深く関与し、ネットワーク社会に不可欠な存在となる。競争優位は、いったん確立されると追いつくことが困難になる性格を持って、デファクト・ファクトとして幅広い影響力を及ぼす。
 中小企業金融公庫では、プラットフォーム・ビジネスとは、「何らかの装置やソフトウェアや規格をプラットフォームとして、その上で何らかのサービス提供が可能となるビジネス」 としている。
中小企業金融公庫 中小公庫レポート「短期間で公開を果たしたベンチャー企業の特色と成長可能性の評価ポイント」について
http://www.jasme.go.jp/jpn/result/c2_0101.pdf

 
 総務省では、ユビキタス社会の実現に向けてICT産業におけるプラットフォーム機能の役割が重要であるとして、4層のレイヤーを前提としてプラットフォームの機能を以下のようにまとめた。
ユビキタスネット社会におけるプラットフォーム機能のあり方に関する研究会」最終報告
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/050810_5_2.pdf

●ICT産業における4つのレイヤー

 ICT 産業のプラットフォームには、以下3つに挙げるような特徴がある。
① ヒューマン・マシン・インタフェース
 情報の電子化及びネットワークの発展により、伝達可能な情報量は飛躍的に増加しているが、情報を受け取る側の人間の意味解釈活動には限界がある。そのため、階層表現、主体的に情報をひきよせる仕組の構築等といった人間の認知限界に対処する方策が必要となる。
② 物理的制約・資金の流れの制約
 アナログの世界においては、例えば訪問販売を例にとると、カタログ、伝票、業界情報の運搬(情報)、商品の納品(モノ)、集金(決済)は、全て一人の営業マンによって一体的に行われる傾向にあった。しかし、ICT 関連市場では、ネットワークを介した情報のやりとり、宅急便等を利用した納品、銀行やクレジットカード等による決済、といったように情報、モノ、決済の流れを異なる事業主体が受け持つ傾向が強く、各主体間の調整を取る必要性が生じる。
③ 調整メカニズムの再構築
 ITは、情報の共有や伝達を容易にするため、様々な境界の調整能力を増強する側面と、調整の必要性を削減する側面を持っている。これらの変化に的確に対応するため、新たな調整メカニズムの再構築が必要となる。スーパーとメーカーにおける売上情報等の共有を例にその内容を説明する。


 以上の3つの特徴を踏まえ、ICT 産業におけるプラットフォームが十分に機能するための要件としては、「標準化・共通化」、「シームレス化」、「オープン化」が挙げられる
① 標準化・共通化
 複数の共通機能を統合し、技術基準や手続等のルールを統一することである。
プラットフォームを利用しない場合、複数のアプリケーションで同様の機能が存在したとしても、アプリケーション毎にその機能を盛り込む必要があったが、共通機能を統合したプラットフォームを利用することで、アプリケーションの開発の負荷が軽減されるだけでなく、仕様や規格の標準化された全体最適なシステムの構築が可能となる。
② シームレス化
 情報流通の基盤として異なるインフラの差異を吸収し、ネットワークや端末に依存しない円滑な環境を構築することである。プラットフォームを利用しないアプリケーション開発においては、異なるネットワークや端末が存在した場合、それぞれの仕様に合わせた開発が必要だが、シームレスなプラットフォームが実現することで、その手間を省くことが可能となる。
③ オープン化
 明確な条件の下で複数のサービスが横断的に支障なく利用できるようにすることである。特定の事業者以外利用できないクローズドなプラットフォームでは、対象となるアプリケーションが制限され、サービスが限定的になる可能性が高い。オープンなプラットフォームでは、より多くのアプリケーションが開発されることで様々なサービスが提供されるため、利用者の利便性向上や参入・競争の促進につながる。

●プラットフォームを活用したサービス提供の模式図

 ICT産業におけるプラットフォームが果たし得る機能として、以下の8つの機能が考えられる。実際に事業展開されているプラットフォーム・ビジネスは、これらの機能の全部又は一部を提供するビジネス と位置づけられる。
1)アプリケーション利用に係る取引仲介機能
 アプリケーションの利用者と提供者の間を仲介し、取引プロセスの信頼性を担保することにより、取引を円滑に行うための機能である。
2)アプリケーションを集約化するポータル機能
 各種アプリケーションをユーザが利用しやすいように整理・分類・集約して、ポータル(玄関)と呼ばれるメニュー化を行なう機能である。
3)ユーザの本人確認等の認証機能
 アプリケーションを利用するユーザが本人かどうかを認証することにより、ユーザを管理するとともに、第三者のなりすましを防止する機能である。
4) ユーザに対する契約・課金等の代行機能
 アプリケーションの提供者に対して、ユーザへの契約や課金等の手続を代行し、決済リスクを負うことによって、スムーズなアプリケーション利用やユーザの利便性向上を促す機能である。
5)アプリケーション提供の与信機能
 ユーザが利用するアプリケーションが、信頼できるサービスであり、真正の事業者から提供されていることを与信する機能である。
6)取引手順やデータ形式等のシステム基盤機能
 電子商取引を円滑化するために、同一業界のプレイヤーまたは複数業界が連携して取引手順や扱われるデータ形式を整備・統一した上、基盤として提供する機能である。
7)価格形成や品質評価等の市場機能
 ネット上における消費者同士の情報交換により、価格形成や品質評価といった市場的な効果が生ずる機能である。
8)著作権等の知的財産権管理機能
 複製が容易なデジタルコンテンツの利用を、暗号や透かし、認証等の技術を活用してコントロールし、デジタルコンテンツの知的財産権を保護・管理する機能である。