ECの定義(2)

ECにおいてまずあげられるのは、B to B EC(企業間電子商取引である。
 事業者に対する、事業者からの財(物品、サービス、情報等)の提供にEC を用いるものである。この場合対価を支払うのは事業者であり、対価の受取側は事業者となる。また事業者は法人及び個人事業者をも含むものとする。(ただし個人事業者については判別が困難なものもある。)
 利用目的としては、調達での利用と、販売での利用があり、これに伴い、様々なシステム形態が混在している。最も一般的なものがEDI である。EDI は業界等で定められた標準的なメッセージ規約、または企業独自のメッセージ規約を用いて、受発注情報などを記述した電子データの交換を行うものである。EDI のネットワーク回線としては、公衆インターネットを利用したものと、専用線VPN、VAN 等を利用するものとがある。インターネットEDI については、経済産業省では、通例と同様、公衆インターネットを利用するものに加え、インターネット技術(TCP/IP プロトコル)を利用した専用線VPN、VAN をも含めている。
 EDI 以外の企業間EC は、1:Nのホームページによるネット販売サイトがある。これは消費者向けのネット販売の企業向け版に相当する。また一方で、N:1 の電子購買ソリューション等を用いるものを始め、自社においてインターネットによる調達専用サイトを開設する場合もある。
 更に複数の売り手と買い手の仲介を目的として第3 者が運営する、M:N のe マーケットプレイスも利用されている


① インターネットEDI
 経済産業省ではインターネット技術を用いたEDI をインターネットEDI と呼んでいる。この中にはWeb-EDIXML-EDI、ファイル転送型のインターネットEDI、電子メールプロトコルを利用したメールEDI などがある。
 Web-EDI はブラウザをベースにしたEDI であり、パソコンとブラウザがあれば利用できることから、中小企業における活用が期待されている。ただし一般に、Web のコンテンツ表示画面上に人手で入力するため、常時大量の取引を行う場合は、使い勝手が必ずしもよくない場合がある。また社内システムとの連携も、変換ソフト等のインタフェースが必要になる。
 メール型のインターネットEDI は、電子メールのプロトコルSMTP)を利用するもので、Web-EDI と同様簡便なインターネットEDI である。ブラウザの利便性がない変わりに、発注者からのプッシュ型であり、発注のタイミングが明確などのメリットがある。
 ファイル転送型のインターネットEDI は主に大量のトランザクションをやり取りする大手企業同士の取引で利用されることが多い。特にWeb-EDI が苦手とされる社内システムとの連携を行いやすいことがメリットである。ただし導入コストはWeb-EDI やメール型EDI のように安価ではない。
 なお、今後利用が広まると考えられているXML ベースのEDI はこれらインターネットEDI に含まれる。
 インターネットEDI の利用ネットワークとしては、オープンなインターネット以外にも、IP-VPN などが含まれる。
このようなインターネットEDI が経済産業省のEC の定義に含まれることはいうまでもない。
 一方インターネットEDI 以外のEDI を、経済産業省では従来型EDI と呼んで区別おり、これは「広義のEC」に含まれる。
 なお、インターネットEDI はM:N、1:N、N:1 いずれの形態においても存在している。



② N:1 型B to B(電子購買・電子調達)
 買手(調達企業)1 社に対して売手(供給先)が複数社繋がるような仕組みをN:1 型のB to B と呼ぶ。いわゆる電子購買、電子調達、ネット調達と呼ばれるものが該当する。具体的な例としては、個別企業ごとの電子調達システムなどが相当する。またEDI システムベースで構築されることも多い。
 買手が複数であっても、連結対象のグループ企業のみが利用するシステムは、事実上買手の参加オープン性は確保されていないため、e マーケットプレイスではなくN:1 型B to B に含めるのが妥当と考える。
 N:1 型B to B では、通常システムの保有・運営者は買手企業(調達側)となる。売手としての参加の選択肢は開かれているが、買手として第3者がこのシステムを利用することは通常できない。
 なお売手は複数であるが、最終的な契約段階で1:1 で行われることはいうまでもない。



③ 1:N 型B to B(ネット販売)
 売手(販売企業)1 社に対して買手(購入企業)が複数社繋がるような仕組みを1:N型のB to B と呼ぶ。いわゆるネット販売、Web 販売がこれに相当する。また売手1 社が主導のインターネットEDI の仕組みもこれに該当する。
 このような仕組みの例としては、PC のネット販売サイトなどがある。最近は部品等の直接材でもこのような販売サイトを構築することが増えてきた。
 1:N 型B to B では、通常システムの保有・運営者は売手企業となる。買手としての参加は自由であるが、売手として第3 者がこのシステムを利用することは通常できない。
 なお買手は複数であるが、最終的な契約段階は1:1 で行われることはいうまでもない



④ e マーケットプレイス(eMP、EMP)〜オープンM:N 型B to B
 B to B の1 形態である、e マーケットプレイスについては、経済産業省では一般的に広く認識されているように「売り手と買い手ともに複数の企業が利用する、インターネット技術を用いたオープンなEC の共通プラットフォーム」と定義する。
 定義においては、売手、買手ともに複数の事業者(多対多、M:N)が利用することを要件にしている。複数バイヤー、複数サプライヤーが調達、販売に共同で利用するビジネス・プラットフォームとなるため、新規取引先開拓といった機能が提供されることになる。なお複数の多寡は問わない。
 また定義にはオープン性を要件としているが、これは参加のオープン性を意味する。すなわち当該品目にかかわる任意の企業にとって、参加申込みの選択肢が開かれていることを意味する。ただし当然参加にあたって資格審査がある場合があり、申込みが直ちに参加を保証するものとは限らない。
 e マーケットプレイスにおける共通プラットフォームは、単に取引機能をASP として提供するのみならず、複数の売手、買手が存在することによって、取引の場、特に新規取引先開拓(ソーシング)の機会提供の場として機能することを指す。具体的には相見積、逆オークション、情報交換等の受発注前工程機能が提供される。これらの利用により固定的、クローズな取引でない、オープンな取引が実現する。ただしe マーケットプレイス上の取引が常にフルオープン、すなわち全ての参加企業に公開されるものとは限らない点に注意されたい。実際逆オークション等が行われる際、特定の選別された複数の相手とのみ実施することも行われる。また、取引先との最終的な受発注契約は、他の参加企業に漏れないように、e マーケットプレイス上のセキュアな仕組みで行われる。e マーケットプレイスの中には、継続取引、コラボレーション機能のサポートを標榜するところもあり、非オープンの取引がe マーケットプレイスの中に存在することもまた必然である。従って、経済産業省の定義のオープン性は、参加のオープン性を指しており、取引のオープン性は要件としていない。
 このようなe マーケットプレイスは、いわゆるパブリックe マーケットプレイスともよばれているものに相当しており、運用主体は特定の売手あるいは買手ではなく、複数の事業者の共同または第3 者があたることが多い。



⑤ クローズM:N 型B to B(e マーケットプレイスに含まれないM:N 型)
 複数の売手、買手が参加するEC の場であっても、参加のオープン性が保証されていないものについては、クローズのM:N型取引として、経済産業省ではe マーケットプレイスには含めず、通常のB to B としている。具体的には例えばいわゆる業界VANにおいては、参加の際に別途取引企業同士の合意が必要であるため、参加申込みが完全にオープン化しているわけではない。この結果固定的な取引のみをサポートする場合も多いのも実状である。



⑥B to C EC(消費者向け電子商取引
 ECにおいては、B to B以外にも、事業者から消費者に向けた電子商取引も大きく発展している。B to C(消費者向け電子商取引)とは、事業者から個人消費者への、財(物品、サービス、情報等)の提供にEC を用いるものである。この場合対価を支払うのは家計であり、対価の受取側は事業者となる。個人事業者による購入は家計からの支出でないため、原則的にB to C ではなくB to B とみなす。
 具体的には、PC、旅行などのネット直販は、家計支出により購入されたと考えられるものは、原則的にB to C とみなす。また法人向けPC 販売、出張用チケット販売等は、企業の支出になるためB to Bとみなす。個人事業者による購入も原則としてB to Bとして扱うが、事上判別が困難なことも多い。
 また、C to C の個人間オークションで手数料を出品者個人から徴収することが一般に行われているが、これは各種サービス品目のB to C に含入している。



⑦ モバイルコマース
 B to C EC の内数としてモバイルコマースを切出している。経済産業省では、モバイルコマースを、モバイル機器(ブラウザ内蔵型携帯電話、通信機器接続可能カーナビ、通信機器接続(内蔵)型PDA)を介して、インターネット技術を用いたネットワーク上のコンテンツへとアクセスしてEC が行われる形態と定義する。
 なお、モバイルコマースは定義上、B to B、B to C双方ともありうるが、結果的にB to Bでの利用は少なくB to C での利用が殆どであるため、経済産業省ではB to C におけるモバイルコマースのみを扱っている。



⑧ 固定系EC
 モバイルコマース以外のEC を固定系EC と呼ぶ。PC、ゲーム機、セットトップボックス等主に家庭内での使用を想定した端末を、電話回線等を通してインターネットに接続する形態のものを指す。携帯電話やPHS をノートパソコンに差し込んで使用する形態は、固定系端末利用のため、固定系EC に含めている。



⑨C to C(インターネットオークション)
 また、消費者間の個人的な取引も多く用いられている。C to C とは、インターネットを用いて個人間で取引を行うもの全てを指すが、e メールベースの個人間取引や掲示板を通じた取引など、その範囲は多岐に亘っており、全てを捕捉することとが困難なため、経済産業省では「ネットオークションにおける落札額(取引成立額)の総額」を調査範囲としている。

 このように、ECの定義では、広義には電子媒体、コンピュータネットワークを通じて行われる商取引とする一方、狭義ではインターネット上で行われるものという媒体に注目したもの。または、商取引の範囲に注目し、広義では商取引全般とする一方で、狭義では受発注を要件とするものがある。