ECのビジネスモデル(2)

 ECにおいえて、ビジネスレイヤーに注目したもとしては、中村氏のがあげられる。
中村雅章「ネットビジネス戦略とビジネスモデル」『中京ビジネスレビュー』2005.3 No.1
http://www.chukyo-u.ac.jp/educate/mba/cbr/001/imgs/05.pdf
 これまでの成功モデルをみると、従来型のビジネスプロセスを再編成することで新たな価値を生み出し、それを収益につなげている。ここでは、ビジネスプロセスを短縮する、新たなプロセスを創出する、特定の要素プロセスに特化する、の3つの観点から、それぞれダイレクトモデル、情報仲介モデル、機能特化モデルの3つに分類した。以下に、各モデルについて、最後にビジネスレイヤーとの関係について示す。

①ダイレクトモデル
 ダイレクトモデルは、顧客に直接アクセスし、製品やサービスを販売することで収益を得るモデルである。従来の流通過程をになっていた既存の中間業者は「中抜き」れる。顧客と直接結びつく過程でどの業者が主役となるかで、生産者型と流通業者型に分けられる。最近はクリック&モルタル型のビジネス形態が増えてきている。

(1)生産者型
 製品やサービスの生産者が直販するモデルで、小売りや卸などの中間流通コストを削減し、顧客ニーズを製品・サービスの形で迅速に反映することで競争力を得る。
 メーカー直販は、物品販売の場合は商品購入までにどうしても一定の時間がかかる。これに対して、商品がデジタル財、サービス財の場合はダイレクトモデルのメリットが十分に生かされる。すなわち、音楽、映像、放送、ソフトウェア、教育などの場合は、ネット上で商品の配送が可能であるため、顧客はリアルタイムでサービスが受けられる。

(2)流通業者型
 生産者型に対して、特定の生産者に依存しない幅広い商品やサービスを顧客に提供するのが流通業者型である。特定の分野の商品ならば何でも購入できるという利便性を提供することで差別化を図る。
 このように、流通業者型は生産者と顧客との間を最短距離で結び、顧客のニーズに迅速に応えることで需要を創造する。

(3)クリック&モルタル
 製品やサービスを販売するために、インターネットと実際の店舗・物流システムによるビジネスを組み合わせる方法である。クリック&モルタルという言葉自体は、インターネットを象徴する「クリック」と、リアルな店舗を意味する「ブリック&モルタル」を掛け合わせて作られた造語である。ダイレクトモデルで中抜きの標的となった小売り・流通業者が販売チャネルの1つとしてインターネットを活用することで、クリック&モルタルとなる場合が多い。また、ネット専業企業が単独、またはリアル企業と連携してクリック&モルタルになることもある。
 クリック&モルタルでは、顧客はインターネットで情報収集と注文を行い、商品の受け取りと支払いは実店舗で行うというように、顧客にとって安心・安全な取引を実現する点でネット専業企業とは差別化できる。一方、ネットでの売り上げが増えるにつれて実店舗での売り上げが低下する、いわゆるカニバリ(共食い) 現象をいかに防ぐかが課題である。
 クリック&モルタル型では、ネット上では実際の店舗とは異なったサービスを展開する、ネットに情報配信することでリアルな店舗に顧客を誘導する、といった対応でネットとリアルの相乗効果を追求する。



②情報仲介モデル
 従来の流通過程をたばねてきた中間業者は、ダイレクトモデルなどにより機能が解体、浸食されつつあるが、広大な電子空間のなかで情報の価値を提供する新たな仲介業者が出現した。それがインフォミディアリ(informediary)とよばれる情報仲介業者である。多くの企業や個人が情報発信することにより、どこにどのような情報があるかを見つけることが困難になるため、売り手と買い手をうまくマッチングするビジネスが成立するのである。
 情報仲介モデルは、ダイレクトモデルのように商品やサービスの販売ではなく、買い手と売り手に関する情報を仲介することで収益を得るモデルである。このモデルにはさまざまな類型が考えられるが、代表的なものを以下に挙げる。

(1)エージェント型
 特定の分野の製品情報を大量に集積して顧客に検索させ、製品やサービスの販売を仲介するものである。直接商品の販売を行わず、あくまで情報を仲介するだけである。このモデルは、基本的に顧客からではなく、売り手から徴収する会費や販売手数料で成り立っているために、販売代理、または購買代理として支持されるだけの十分なメリットを打ち出す必要がある。
 このように、エージェント型では、顧客に対する最適な業者の紹介と、業者に対する最適な顧客の紹介という両面の機能をうまくバランス化することが必要である。

(2)オークション型
 オークション型は、売り手と買い手のマッチングと価格形成を支援することで、主に売買に伴う手数料を得るモデルである。需給状況や時間の経過とともに価値が変動する商品(中古品、余剰品などが代表) に向いているが、現在ではあらゆる商品が対象となっている。ネットオークションは、明確な販売チャネルを持たなかった消費者間の取引として始まったが、メーカーが在庫処分のために利用するなど、参加者の範囲は拡大している。
 オークションは1つの機能として、ショッピングサイトなどで必須のアイテムとなりつつある。
 通常のオークションは、売り手の商品に対して買い手の提示する価格が徐々に上がっていき、制限時間内に最高値をつけた買い手が落札するが、逆に買い手が購入条件を示し、複数の売り手が入札することで、最安値をつけた売り手が販売の権利を得るのが逆オークションである。これは前述したように、プライスラインがビジネスモデル特許を取得している。
 さらに、オークションの一種として「共同購入」(ギャザリング) がある。これは期限を決めて、購入希望者が増えると徐々に価格が下がっていくというものである。

(3)商品企画型
 消費者が自分の欲しい商品を企画し、一定の注文を集めることでメーカーに製品化を依頼DTO(Design To Order)とよばれるビジネスモデルである。需要が確定してから生産するために、機会損失や在庫リスクを避けることができるが、基本的に受注生産となるためにスケールメリットが出しにくいという状況にある。

(4)マーケッター型
 インターネットの利用者を組織化し、その情報を基に企業のマーケティング活動を支援するモデルであるウェブサイトを通じて顧客を集め、そこで得られた個人情報を使って企業の市場調査や広告業務を代行することで収益を上げている

(5)比較評価型
 インターネットの利用者に各企業の商品やショッピングサイトなどについて、商品の質、使いやすさ、価格、品揃え、注文の容易さなどの評価情報を提供することで、広告や販売手数料を得るモデルである。

(6)モール型
 インターネット上に店舗を出店する場と仕組みを提供することにより、テナントから会費や販売金額に応じた手数料などを徴収するビジネスモデルである。テナントが増えるとモールの集客力が上がるが、自分の店があまり目立たなくなるというジレンマがある。顧客に最適な店を紹介するという点では、上の比較評価型との競争が激化している。

(7)ポータル型
 ポータルとは、「入り口、玄関」の意味であり、顧客が情報を入手するときの入り口を提供するビジネスモデルである。顧客に頻繁にアクセスしてもらうことにより、広告収入などで収益を上げる。検索サイトがポータルの代表であり、他のウェブサイトにつなぐ役割を果たす。また、ポータルの概念は拡大しており、不特定多数の人々に幅広い情報を提供するのが基本であったが、最近は特定の事柄に関心を持つ人達が最初にアクセスするサイトをポータルということも多い。
 また、多様な人々への入り口という意味では、ネット上の仮想コミュニティもポータルの一種である。人力検索サイトの「はてな」は新たなタイプのポータルモデルである。



③機能特化モデル
 ビジネスプロセスのある機能に経営資源を集中し、活動を特化することで他企業のビジネスプロセスを完結させるモデルである。多くの企業から同種の活動を引き受けることにより、専門性や規模の経済性を発揮し、収益を上げる。オペレーション型、情報ネットワーク型、サービスプロバイダー型の3つがある。

(1)オペレーション型
 ビジネスプロセスの各種オペレーションを専門に行うことで絶対的な力を発揮する。たとえば、製造活動に特化した形態としてEMS(Electronic Manufacturing Service)が挙げられる。EMS企業は電子機器の製造を専門に受託する企業であり、資本系列に関係なく複数のメーカーから同じカテゴリーの製品を受注することにより、生産規模を拡大し、高品質・低コストを実現する。また、製造だけでなく、上流工程の設計や下流工程の検査、出荷処理まで含めて専門に請け負うことも多い。

(2)情報ネットワーク型
 顧客の情報ネットワーク構築を支援するモデルである。
 顧客のサーバーを預かり、高速回線や保守・運用を提供するハウジングサービス、サーバー自体も貸し出すホスティングサービス、これらの基本的なサービスに加え、システム開発・管理などの機能を提供するiDC(internet Date Center)とよばれるサービスなどがある。

(3)サービスプロバイダー型
 認証、課金・決済、セキュリティ、会員管理、運用管理、利益管理などのアプリケーション機能をパッケージ化して安価にレンタルするやインターネットへの接続サービスを提供するがある。
 広義には上記(2)の情報ネットワーク型に含まれるが、物理的な設備面での支援は行わない。

 ビジネスモデルの活動層として、これまでに述べてきたビジネスモデルの類型をビジネスレイヤーとの関係で整理すると以下のようになる。
 ダイレクトモデルについては、生産者型と流通業者型はコンテンツ層とプラットフォーム層にまたがる活動と考えられる。生産者型はコンテンツ層での活動が中心となるが、最終消費者サプライヤーをつなぐプラットフォームとしての役割を果たす場合もある。流通業者型は、顧客に多様な商品を提供するプラットフォーム層の活動が中心となるが、オリジナル商品の開発などコンテンツ層での活動も含まれる。クリック&モルタル型については、生産者型、流通業者型の活動層に加え、実店舗や配送システムなどインフラ層の活動も行っているといえる。