内外作問題

丹沢安治『新制度派経済学による組織研究の基礎』白桃書房 2000
小野桂之介 根来龍之『経営戦略と企業革新』朝倉書店 2001
 CoaseからWilliamsonへといたる取引コスト理論のメインストリームは主として、「作るか買うか」(make-or-buy)の問題を扱ってきた。換言すると、「内外作問題」である。つまり、取引費用が低い場合には外部調達が選択され、逆に取引費用が高い場合には企業内部の生産(内作)や中間組織 が選択されるという問題である。
●内作と外作のメリット

内作 ←市場業と企の間 → 外作
付加価値が高い 固定費負担無し
安定した供給享受 需要変動対応しやすい
品質上重要 相対的重要性が低い
機密保持が必要 外部専門能力を活用
ノウハウの蓄積 外作先の競争を活用
←中間組織→

 まず、IT化がもたらすインタラクションコストへの効果をまとめると、IT化に対応して以下の3点に対応される。
 ①電子的伝達効果、②電子的仲介効果、③電子的統合効果の三つがあげられる。
 第一の電子的伝達効果とは、情報が単位時間あたりにしてより多くの情報を送ることと、その伝達コストを大きく低下させることとができること、もしくは少ない時間とコストで同じ量の情報を送ることができることを意味する。この効果は、内作と外作の両方に利益をもたらす。
 第二の電子的仲介効果とは、コンピューターを仲介者としてより多くの潜在的な売り手と買い手に接触できることをいう。この効果は、インタラクションコストを減少させる効果があり、内作に利益をもたらす。
 最後の電子的統合効果とは、買い手と売り手がITを利用して付加価値連鎖の各段階において協調し、相互浸透的なプロセスを作り出す時に享受できる効果のことをいう
 この電子的統合効果がもたらす利益は、内作と外作において容易に獲得される。一方で、内作の方が導入においては既存のプロセスを活用できるため有利である。またそれがコストとしてロックイン効果ももたらし、経営の柔軟性を妨げる結果につながることもある。

 IT化がなされる前段階において、純粋な外作では、多くの供給者と購買者が存在するので、購買者は異なる製品供給者を比較し、特性を最も活かした製品の供給者を選ぶ。この調整がもつ明らかな利点の一つは、規模の経済性と仕事量の水準化を利用するために、望ましい製品を生産するためのコストが最小化されている点にある。
 しかし、この広範な選択に費やす調整コストは相対的に高い。なぜなら、購買者は多様な供給者から情報を収集し分析しなければならないからである。さらに、外作における調整コストは、「機会主義的」な取引相手に起因する交渉コスト、リスク許容コストも含まなければならない場合もある。
 一方、内作は、調達者側の選択範囲にある密接な企業間関係において、供給者と調達者を系列的に結び付け、一般的には外作よりも生産コストは高くなる。
しかし調達者側は、様々な供給者に関する大量の情報を収集し分析する必要がなくなるので、調整コストは外作のそれよりも低くなるくなる。
 では、ここにIT が持ち込まれた場合、どのような変化が起きるのであろうか。以下、IT が引き起こす変化の影響を特に受けやすい調整コストに焦点をあて論じていく。
 調整の本質は、情報を伝達し処理することにあるので、ITの利用が取引コストを減少させる可能性は十分に高い(Mallone)。
 また 情報の偏在は不確実性と取引当事者の機会主義から発生して取引当事者の少数性を誘発する要因として認識されたが、情報ネットワーク化と分散処理の拡大、各種情報提供サービスによって、情報の偏在の希薄化がもたらされる。つまり、情報の偏在の希薄化はより多くの取引参加者がより多量で正確な情報の獲得ができるようになることを意味する。結果的に不確実性と取引当事者間の機会主義に迅速かつ正確に対応することができ、取引参加者の少数性の誘発を抑制する方向に働く。したがって、これらの効果は外作と内作の両方に利益をもたらす。しかし、外作は内作にくらべて、通信密度が高いものである。それゆえ通信に要する時間とコストを減少させることによって内作よりも外作の方が有利になり、外作の成長が促進される。
 しかし一方では、外作が拡大することによって、取引に参加する人の数が増大し、外作が効率的に機能するために必要とされる通信量が増大し、新たな調整コストが発生する。この調整コストの増大が外作のトータルでのコストを内作のそれよりも押し上げるとき、この変化は外作よりも内作に有利に働く。
 したがって、新たなITが外作取引と組織的取引とのどちらに有利に働くのを見分けるポイントは、外作取引へのIT導入後生じるであろう調整コストの増大が、どの程度の範囲に留まるかが問題となる。