取引コスト理論(2)

ロナルド・H・コース(Coase, R. H.)著 宮沢健一 後藤晃 藤垣芳文訳『企業・市場・法』東洋経済新報社  1992.10
O.E.ウィリアムソン(Williamson, Oliver E.)著 浅沼萬里 岩崎晃訳『市場と企業組織』日本評論社 1980.11
経営組織論とは
http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~kaoki/sosiki.html
 取引コストがいかにして発生するのか。つまり取引コスト発生のメカニズムは、Williamsonが示した「組識失敗の枠組み」によく表現されている。
 これは市場メカニズムによって行われる諸機能がなぜ不完全であり、取引が市場メカニズム以外になぜ内部組織で行われるのかを究明しようとしたCoase[1937]の理論に根拠を置く。
 Coaseの議論によると、企業間で何らかの契約が成立するとき、市場取引による短期契約では、取引主体のそれぞれに応じた取引コストが必要となる。したがって、将来に対する予測の難しい場合や取引に関わる主体のリスクに対する態度の不確実性が高い場合には、それらに柔軟に対応できる長期契約が望ましいとされる。すなわち、「不確実性」(uncertainty)の問題に対応するためには、外作の調整メカニズムよりも組識内での取引を利用した方が取引コストは低くとどまるという主張である。
 このCoase によって提起された企業の取引コスト生成の原理は、さらにWilliamson により体系化されていく 。 彼は、人間の諸要因である「限定された合理性」と「機会主義」および環境の諸要因である「不確実性・複雑性」と「少数性」(環境的諸要因)という四つの概念を用いて、外作のメカニズムより内部組織での取引が優位性を持つ場合には内部組織が生成されることを説明している。
●取引コスト発生のメカニズム

 まず、人間的諸要因の一つとして取り上げられる「限定された合理性」とは、H.A.Simon の理論を継承したものである。「限定された合理性」を導く二つの諸限界は、情報に対しての人間の処理速度と記憶容量の限界、そして情報伝達能力の不完全さから生ずるものとして認識される。
 また、限定された合理性と結びつくものとして、環境の「不確実性、複雑性」の問題が取り上げられる。複雑性の問題とは、①複雑な決定問題については、代替案の数が非常に多くなること、②またその代替案に対してもすべてを書き出すための規則が存在しないこと、③そして決定後の結果を見積ることはきわめて難しいこと、という三つの諸条件が、環境の不確実性と絡み合い意思決定に対する困難が生じることによって導かれる。
 Williamson の見解としては、機会主義的行動は「狡猾さを伴う私利追求」である。つまり各々の経済主体には、自己利益追求のために情報を戦略的に操作したり意図を偽って伝えたりする行動パターンがみられるということを指す。またこれは全ての経済主体が機会主義的に行動するということではなく、いくつかの主体が時折機会主義的に行動するということである。 このような機会主義は、少数性の条件と結びつくとき、契約を監視するための取引コストを引き起こす要因としてあらわれる。もし取引参加者が多数存在するとしたら機会主義的に振る舞うことは契約不成立のリスクを高めるため、交渉過程においても契約の履行過程においても情報の歪曲や操作、虚偽の申告は手控えられることとなる。このようにして人的要因としての取引参加者の少数性が結びつくとき、交渉・決定および監視・強化のための取引コストが肥大化することとなる。
 最後に情報の偏在の問題がある。環境の諸要因としてのこの取引参加者の少数性を生み出す要因としては情報の偏在があげられる。それは主として不確実性取引当事者の機会主義から発生し、最初の契約を獲得した経済主体に先発者の優位性をもたらすことを通じて取引参加者の少数性を誘発させる。


 次回では、取引コスト理論による組織の境界を考えていきたい。これは、内外作問題ともいわれ、日本で多く見られる中間組織の問題もある。