國領のプラットフォーム・ビジネス

 また同じくプラットフォーム・ビジネスに関する先行研究として國領の研究は見逃すことができない。
國領二郎『オープン・ネットワーク経営』日本経済新聞社 1995.5
國領二郎『オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル―』ダイヤモンド社 1999.11
http://www.ecrp.org/topic-s/bs/review/doctor2002/kokuryo-isagai.htm
國領二郎『オープン・ソリューション社会の構想』日本経済新聞社 2004.7
國領二郎「経営戦略としてのオープン・アークテクチャ」
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/itme/dp/dp20.pdf


 國領が提唱する「プラットフォーム・ビジネス」は、一般に使われているプラットフォームの概念よりは限定的である。その定義は次の通りである。
 「誰もが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的なビジネスとして行っている存在 」
 具体例としては、問屋・卸・商社など中間流通業者や銀行、クレジットカード会社、運送会社、電気通信事業者、不動産流通業者、広告代理店、旅行代理店などである。プラットフォーム・ビジネスの種類としては上記のように非常に幅広く挙げることができるため、中間流通業者、サービス業者、公共事業者、取引仲介型プラットフォーム・ビジネスの4つに分類した。
 國領のプラットフォーム・ビジネスの範囲は存在しこれまでの経済にも大きな役割を果たしてきたものを多く含んでいる。その中でも、ネットワーク化された経済において大きな役割を果たすとして、取引仲介型プラットフォーム・ビジネスを取り上げている。
 
 取引仲介型プラットフォーム・ビジネスとは、電子商取引の成立を助ける5つの機能をネットワーク上の私的ビジネスとして提供するプラットフォーム・ビジネス」である。
 取引仲介型プラットフォーム・ビジネスの5つの機能 として、以下のものが挙げられる。①取引相手の探索
②信用情報の提供
③経済価値評価
④標準取引手順の提供
⑤物流などの諸機能の統合

 諸サービスを統合するプラットフォーム・ビジネスは、自社ですべての機能をまかなう必要はない。通販業者は、宅急便業者、信販会社などの単機能のプラットフォーム・ビジネスを組み合わせて使って、消費者に対して統合されたサービスを提供している。
 更に付加された2つの機能として
⑥固定費を変動費に転換する手段の提供
⑦顧客間インタラクション

 國領は、これらの機能のいくつかを持ち、補えるものについては、外部の単独のプラットフォーム・ビジネスから調達し統合化することで、標準化されたサービスを提供する取引仲介型プラットフォーム・ビジネスが、ECにおける取引上の成約・リスクを削減させる存在としている。

 國領はプラットフォーム・ビジネスをIT化による経済性の変化を最も受けている分野とし、プラットフォーム・ビジネスの階層からその変化を述べていいる。
 プラットフォーム・ビジネスの提供するサービスは、情報通信技術基盤と密接に関連する。 情報通信産業トランスミッション、ネットワーク・プラットフォーム、アプリケーション・プラットフォームの3層で捉えている。同様に、プラットフォーム・ビジネスの機能を、情報ネットワークとの関係でみると、次の3つの階層に分けることが出来る。
  1)物理的インフラストラクチャ
    電話線など、情報伝達のためのケーブル網を提供する機能。
  2)メディア・ネットワーク
    ケーブル網の要所に通信機械を配置し、任意のポイントの通信を確保する機能。
  3)サービス統合機能。
    上記の2つの階層の情報ネットワーク基盤を利用し、統合的なサービスを実現する機能。

 物理的インフラストラクチャとメディア・ネットワークは多額の設備投資が必要なため、規模の経済性が強くはたらく、そのため、メディア・ネットワークとサービス統合機能が未分化であった時代は、プラットフォーム・ビジネスは大規模なシステムを志向する傾向にあった。情報通信システムの分散処理化でメディア・ネットワークとサービス統合機能が分離することが可能になると、サービス統合機能を提供するプラットフォーム・ビジネスは、メディア・ネットワーク機能を提供する企業からサービスを買うことで、多額な設備投資をしなくてもすみ、固定費を回収するための規模の経済性や範囲の経済性を追求する必要がなくなる。
 しかし、サービス統合機能に特化したプラットフォーム・ビジネスの規模が必ず小さくなるとは限らない。探索機能や経済評価機能を提供するためのデータベースは大規模であるほど価値が上がるし、信用仲介機能は、場の規模が大きいほど信頼のイメージを確立しやすい。また、業界で大きなシェアを占めなければ、標準取引手順を提供する機能は果たせない。設備投資による規模の経済性から、ソフト面の規模の経済性、あるいは、取引参加者が増えるほど便益があがるネットワークの外部性に経済原理が変化してきているといえる。
 メディア・ネットワーク層とサービス統合機能層が分離することによって、サービス統合機能に特化したプラットフォーム・ビジネスのハード的な固定費は低下した。ことは、参入障壁が低くなったことを意味する。しかしながら、現実には、取引仲介型のプラットフォーム・ビジネスが1つの分野の中で多数乱立する現象はあまりみられない。その理由は、プラットフォーム・ビジネスが果たす5つの機能が先行者利得をもつことにある。データベース、顧客からの信頼、製品の評価やサービス統合のノウハウ、取引手順を変えることのコストなどが規模の経済性やネットワークの外部性を生み、顧客を定着させる機能を果たす。しかしながら、設備投資による独占・寡占と異なり、プラットフォーム・ビジネスは顧客のニーズに応えられなくなったとき、その基盤は脆弱になる。顧客のニーズに応える新しい競合が出現したり、取引参加者がプラットフォーム・ビジネスを通さずに直接取引を始める可能性がある。また、ソフト的な付加価値が勝負であるだけに、まったく新しい発想のサービスに駆逐される可能性もある。取引仲介型のプラットフォーム・ビジネスは、1つの業界で独占あるいは寡占でありながら、潜在的な競争にさらされているのである。

 國領は出口との定義の違いを次のように述べている。「プラットフォームの概念を社会的に定義している例として、出口のプラットフォーム産業が挙げられる。これは本書のプラットフォームの考え方にきわめて近いが、ここでは特にプラットフォーム機能をビジネスとして果たし、取引の仲介を行っている企業群に着目する」
 また、両氏ともにプラットフォームをIT産業の分析からは始めた点では総務省のプラットフォームと同じであるが、それを普遍化して定義したものである。そして、その定義を他の産業にあてはめたときに、必ずしも新しい存在ではなく、これまでに存在していたことを明らかにした。
 そして、國領は「プラットフォーム型経営が経済の色々な局面で現れてきていること」 を紹介し、プラットフォーム型経営が広がる理由 として3つの要因を挙げている。
①技術の高度化は資源集中投入可能なプラットフォーム型経営が有利になる。
②消費経済の成熟化
③経済低迷下において企業収益率の低い資産をもてなくなって来ている。


 この様に経済の広い範囲での議論をした國領に対し、インターネットによって爆発的に拡大しているECの領域に絞り、より國領の取引仲介型プラットフォーム・ビジネスにおける顧客間取引を発展させたのが、次項の根来の研究である。