コミュニティ指向と顧客間インタラクションの差異

國領二郎『オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル―』ダイヤモンド社 1999.11

 コミュニティ指向は、国領の「顧客間インタラクション」概念を拡張したものである。そこでOne to Oneマーケティングと同様に、差異を明確にするため、顧客間インタラクションのレビューを先に行い、最後に差異をあげる。


 國領の「顧客間インタラクション」はコンピュータ・ネットワーク上のコミュニティ上で、従来コミュニケーションの物理的制約から交流するとの無かった消費者たちが、商品やサービスの情報を交換・共有し合い、それが商品の売れ行きや顧客満足度に大きな影響を与えるようになった現象である。
 顧客サイドに情報が多い時代には、顧客コミュニティの知恵と相互作用しながら価値を創造し、それを内部化して利益とするビジネスモデルが求められる、というこれまでの売り手主導の生産方式を転換するものである。


 そもそも、企業と顧客との関係パターンとしては、以下の3つである。
1)売手からの一方的なコミュニケーションマスコミュニケーションを利用した宣伝や広報
2)双方向コミュニケーション:カスタマーセンターなどにおいて行われている顧客とのコミュニケーション。顧客からの提案・クレームなどを積極的に製品開発に結びつける
3)顧客間インタラクション
:企業と顧客との間だけでなく、顧客同士の関係が形成されるコミュニケーション。ネットワーク上の顧客同士が相互作用を形成する「場」におけるコミュニケーション


 顧客間インタラクションの諸形態としては、次の5つがあげられる。
①商品型:顧客間インタラクションそのものが商品である場合
②ユーザーサポート型:顧客相互が使用方法の疑問やトラブル対応に関して助け合う現象
③評価口コミ型:商品評価に関わる顧客間インタラクション
④開発参加型:ユーザーサポートの壁を破って、ユーザーの手によって商品が補完するような補助が他商品が開発されるもの
⑤クリティカル・マス形成型:ネットワークの外部性によって、受けられる便益が限界費用を超え、商品に対する需要が加速度的に高まる現象
 しかし、顧客間インタラクションも、企業に情報はコントロールできないため、よい情報であれば宣伝効果があるが、情報によっては企業に大きなダメージがある場合がある。これを、負の口コミ効果と呼ぶ。


 もともと、國領のプラットフォーム・ビジネスの役割は、顧客間インタラクションを起こすことである。多くの人々の創意工夫が相乗効果を生み出すような環境をビジネスとして提供し、その付加価値に対する報酬を自社に取り込めるような仕組みを作ることにより、プラットフォーム・ビジネスの持つ「場の創造性」引き出される。これにより取引参加者が相互に関わり、情報交換を行い、顧客間インタラクションにより、その場自体に情報が蓄積されることで、プラットフォーム・ビジネスの経営自体の中核的機能となる。更に、人の知識型の人の知識と結合して更に新しい知識を生む、知識の収穫逓増の原理が働くのだ。


 チェーン指向と國領の「顧客間インタラクション」との差異としては、以下の3点があげられる。
①顧客間インタラクションは、最終消費者間コミュニケーションに着目した概念だが、知識インタラクションは企業間コミュニケーションを含む、アクセス者間のインターネット上のある場における相互作用すべてを対象にしている。
②顧客間インタラクションは基本的にフローの考え方であり、見込み客に限定されたいとしたインタラクションである。知識インタラクションはストックと区別されたフローであり、潜在顧客も参加でき意図しない形での形成されたものであり、知識コミュニティに蓄積されて、またフィードバックされる
③顧客間インタラクションは、ある製品の顧客間に限定されたインタラクションでありアクセス者外としたインタラクションをいうのに対し、コミュニティ指向は、アクセス者が意図しない、場における結果としてのインタラクション、発信者が意図しないで行った相互作用を場の運営者や生産者が抽出することも含まれる