取引コスト理論(1)

O.E.ウィリアムソン(Williamson, Oliver E.)著 浅沼萬里 岩崎晃訳『市場と企業組織』日本評論社 1980.11
O.E.ウィリアムソン著 井上薫 中田善啓監訳『エコノミック・オーガニゼーション:取引コストパラダイムの展開』晃洋書房 1989.2
トマス・W・マローン(Malone, Thomas W.)著 高橋則明訳『フューチャー・オブ・ワークランダムハウス講談社 2004.9
 現在MITのマローン教授は、電子市場の普及が、ウィリアムソンのいう市場の取引コストを大幅に引き下げ、その結果、取引を内部化する動機が少なくなり、市場化が進むということを1980 年代に予測した。今日からみれば、彼らの予測のすべてが正しかったわけではない。しかし、1990 年代には、一面として、「選択と集中」や「アウトソーシング」など、組織の縮減と市場の利用の拡大がもたらされた。
 

 取引コストとは、「財やサービスの交換を効率的に完遂するために、主体間に存在するべきあらゆるもので、交信、相互理解(静的)、相互理解(インタラクティブ)、交換、搬送・組込に関わるものである。具体的には、トランザクションにかかるコストとして、アクセスコスト、インタラクションコスト、配送コストの3つ」である。

 アクセスコストとは、「供給者が購入者と物理的接点を持つためのコスト」である。空間市場化によるコストは劇的に削減される。

 インタラクションコストとは、「供給者と購入者が、もの、サービスを交換するためにかける探索、調整、切替、信用形成コストであり、取引だけでなくそのための主体間のコミュニケーションを含む費用」である。IT化は従来のコミュニケーションに追加され補完される形で、大いにコストを下げているが、一方で膨大な見知らぬ相手が取引候補者として新たに存在することになり、コスト増大も招いている 。

●4つのインタラクションコストの特定

検索 取引相手を探す、対象製品を探す
○探索コスト 比較 価格を比較する、機能・サービスを比較する
参照 取引相手の特徴を理解する、 対象製品の特徴を理解する
連絡 取引上の条件(数量、納期等)を連絡する
○調整コスト 調整 取引内容を調整する
交渉 取引内容を交渉する
調整 相手に合わせる
○切替コスト 提案 相手に要求を行う
要求 相手に提案を行う
信用形成コスト 監視 取引が契約とおりかどうかを監視する
強制 契約の履行を強制する

根来龍之「競争と共有の関係」より
http://www.jnx.ne.jp/download/seminar/030620_negoro.pdf

 具体的に、それぞれのコストを見てみると、まず探索コストとは、潜在的な取引先を探し出すためにかかるコスト」のことをいう。
 次に調整コストであるが、これは「企業をまたがって取引が行われる際に、企業間で必要となる調整にかかるコスト」である。例えば、何らかの仕事を始める際、当事者間には「役割配分」、「契約の締結」、「オペレーションの相互調整」が必要となる。この結果、調整コストが高くなると予想される取引においては、取引先を数少ない信用のおける相手に絞る、垂直統合を行って取引先を内部化する等の行動をもたらす。
 第三の切替コストとは、「取引先を既存の取引先から新たなものに変えようとする際に発生するコスト」のことである。集中処理システムの時代においては、中心となるホストに専用端末やソフトを取引先に配るという形式で集中処理システムが構築されてきた。こうした高い特殊性をもつ資産は、結果として当システムを導入した取引先に対し高い切替コストを課すこととなり、取引先の囲い込みに大きく貢献してきたことが指摘されている。いわゆる「ロックイン効果」と呼ばれるものである。
 最後に信用形成コストとは、「取引相手を信用できるか否かを確認するコストや騙されるリスクに伴うコスト」である。見知らぬ相手との信用形成をどのようにして行うかという問題は今日的に非常に重要なものとして論じられている。こうした信用形成コストへの対応策としては、長期的な取引関係、信頼できる第三者の推進などが伝統的な手法である。



 配送コストとは、「供給者が購入者に、もの、サービスを届けるためのコスト」である。物財においては、IT化での効率化は限界があるが、デジタル財においては、配送までもネットワーク上で完結させることが可能となり大きなコスト削減となる。


 以上のことから、IT化における取引コスト(取引コスト)は以下のようにまとめることができる。
取引コスト=アクセスコスト(↓)+インタラクションコスト(↓or↑)+配送コスト(↓)
 IT化は確実に取引コストの削減に貢献はしているが、インタラクションコストの増大の幅によってそれは限定的なものになるとも言える。


 次回は、取引コスト理論は何かより詳細に検討してみよう。